
この銘柄、まずは"分析"からいっしょに見ていきましょう。
事業と業績までを無料で公開しています。バリュエーションと"結論"パートは、筆者の個人用メモとして非公開にしています。
1. エグゼクティブサマリー
Strategy Inc(旧 MicroStrategy、NASDAQ: MSTR)は、もはやソフトウェア企業ではなく 世界最大のビットコイン保有上場企業(847,363 BTC、取得平均単価 約 $75,656、累計取得コスト 約 $64 billion) であり、自社を「ビットコイン・トレジャリー・カンパニー」と再定義した銘柄である。本質的には、転換社債と優先株でレバレッジをかけてビットコインを買い続ける「上場版レバレッジド BTC ファンド」であり、旧来のソフト事業(年間売上 約 $500M、Q1 2026 で $124.3M)は副次的な存在に過ぎない。
足元の最大の論点は mNAV(対ビットコイン NAV プレミアム)が史上初めて 1.0x を割り込み、ディスカウント(約 0.75〜0.85x)に転落した ことである。しかしビットコイン価格が年初 約 $87,000 から 約 $63,000 へ下落する中で、株価は過去 1 年で約 67%、直近 1 ヶ月で約 31% 下落し、$111.16 まで売り込まれた。6 月 15 日時点の 1 株当たり BTC リザーブ価値 約 $139.40 に対し株価 約 $114 は 約 0.82x のディスカウントであり、市場は「$1 の BTC を約 $0.82 で買える」状態になっている。
最大のリスクは、優先株配当(年間 約 $1.5 billion 規模、STRC は年率 11.50%)の固定キャッシュ義務に対する流動性逼迫である。プレミアム消失で優先株 ATM・普通株 ATM の双方が事実上閉じ、2026 年 5 月末には 2022 年以来初めて 32 BTC を売却して配当原資に充当した。これは「永久に売らない」という Saylor の従来方針の転換であり、ビットコイン下落 → バランスシート圧迫 → BTC 売却 → さらなる下落、という負のフィードバック(death spiral)懸念を市場に植え付けた。ただしビットコイン現価は取得単価を下回るものの 強制清算ライン(債務の元本返済の壁は最速で 2028 年 9 月)にはまだ距離があり、$1.4 billion の流動性クッションを確保している。
2. 事業構造と競争優位性
2-1. 「ビットコイン代理」としての構造
| 項目 | 値(2026 年 6 月時点) | コメント |
|---|---|---|
| ビットコイン保有数量 | 847,363 BTC | 世界最大の企業保有。IBIT(BlackRock) を上回る |
| 平均取得単価 | 約 $75,656 / BTC | 現価 約 $63,000 を上回る(含み損状態) |
| 累計取得コスト | 約 $64.07 billion | |
| 含み損 | 約 $11.1 billion | BTC が取得単価割れ |
| 転換社債残高 | 約 $6.7 billion | $1.5B(2029 年債)を 8% ディスカウントで買戻し後 |
| 優先株 notional | 約 $15.5 billion | STRC/STRK/STRF 等。世界最大級の優先株 |
| 想定希薄化後株式数 | 約 386 million | 転換社債・優先株・RSU 等の転換前提 |
| ソフト事業売上(Q1 2026) | $124.3 million | 副次的。BI/クラウド移行 |
2-2. ビジネスモデルの本質(資本サイクル)
Strategy のモデルは「mNAV プレミアムを使った再帰的 BTC 積み増し」である。株価が NAV に対しプレミアム(mNAV > 1.0x)で取引される限り、ATM 増資・転換社債発行で調達した資金で BTC を買えば 1 株当たり BTC(BPS)が増える(accretive)。2026 年 YTD でも BTC Yield 13.3%、BTC Gain 89,378 BTC を達成している。
しかし mNAV が 1.0x を割った現在、このサイクルは逆回転する。プレミアムなしで普通株を発行すれば BPS は希薄化し(dilutive)、優先株も額面割れで発行すれば調達コストが跳ね上がる。経営陣は 6 月に週次の BTC 購入額を 2/3 削減し、$1.4 billion の流動性リザーブ構築へ方針転換した。
2-3. 競争優位性(Moat)と Peer 比較
- 規模と先行者利益: 847,363 BTC は単独企業として世界最大で、BlackRock の IBIT(約 80 万 BTC)をも上回る。上場以来の株価上昇率は約 250%(IBIT は約 55%)と、レバレッジ構造による増幅効果を実証してきた。
- 資本市場アクセス: STRC 優先株は 9 ヶ月で時価 $8.5 billion へ成長し、世界最大の優先株となった。多様な証券(転換社債・複数シリーズ優先株)を組成できる金融工学力は独自の moat。
Moat の脆弱性: ビットコインそのもの(IBIT/FBTC 等の現物 ETF)は信託保有で負債ゼロ・優先株ゼロのため、下落局面では MSTR より構造的に頑健。
2-4. SWOT
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| S (Strength) | 世界最大の BTC 保有(847,363 BTC)/ 比類なき資本市場アクセス(STRC は世界最大の優先株)/ 元本返済の壁は 2028 年 9 月まで猶予 / ディスカウント転落で NAV 妙味 |
| W (Weakness) | mNAV < 1.0x で資本サイクルが逆回転(増資が希薄化要因に)/ 年間 約 $1.5B の優先株配当固定義務 / BTC 取得単価割れ(含み損 $11B)/ ソフト事業は実質ゼロ成長 |
| O (Opportunity) | BTC 価格回復で含み損解消+mNAV プレミアム復活 → 株価がBTCを増幅 / ディスカウント縮小(0.82x → 1.0x)だけで +20% 余地 / 転換社債のディスカウント買戻しによる希薄化抑制 |
| T (Threat) | BTC 続落 → 配当原資のための BTC 売却 → death spiral / 優先株配当カット懸念(STRC 額面割れ)/ 2028-2029 償還の壁 / レバレッジ起因のボラティリティ(BTC の数倍の値動き) |
3. 直近業績とファンダメンタル
3-1. Q1 2026 決算(2026/5/5 発表)
| 指標 | 値 | コメント |
|---|---|---|
| ビットコイン保有(Q1 末) | 818,334 BTC | 年初比 +22% |
| BTC 取得コスト | $61.81 billion | |
| BTC 時価(Q1 末) | $64.14 billion | |
| ビットコイン未実現損 | -$14.46 billion | 公正価値会計による mark-to-market |
| 純損失 | -$12.54 billion | |
| 希薄化後 EPS | -$38.25 | 予想 -$18.98 を大幅に下振れ |
| ソフト事業売上 | $124.3 million | 予想 $125.07M 並み |
読み解き: EPS の巨額赤字は BTC 評価損であり、現金流出を伴わない会計上の損失。MSTR の業績は実質的に「保有 BTC の時価変動」そのものであり、損益計算書を伝統的に読む意味は薄い。注目すべきは BTC Yield と BPS の推移、および優先株配当のキャッシュカバレッジである。
3-2. 重要な資本イベント(2026 年)
| 時期 | イベント | 意味 |
|---|---|---|
| 1〜5 月 | BTC を継続積み増し(818,334 → 847,363 BTC) | accretive 局面の名残 |
| 5/11〜5/25 | 2029 年 0% 転換社債 $1.5B を 約 $1.38B(8% 引)で買戻し | 希薄化・償還リスクの軽減、賢明な資本管理 |
| 5 月末 | 32 BTC を $2.5M で売却(2022 年以来初) | 優先株配当原資。方針転換のシグナル |
| 6 月 | 週次 BTC 購入を 2/3 削減、$1.4B 流動性リザーブ構築 | 防御姿勢への転換 |
| 6/15 | STRC 配当を半月払いに変更(年率 11.50%) | 固定キャッシュ義務の明確化 |