
この銘柄、まずは"分析"からいっしょに見ていきましょう。
事業と業績までを無料で公開しています。バリュエーションと"結論"パートは、筆者の個人用メモとして非公開にしています。
1. エグゼクティブサマリー
Atlassian Corporation(TEAM)は、Jira(プロジェクト/課題管理)・Confluence(ドキュメント協業)・Jira Service Management(JSM、ITSM)を中核に、開発者とナレッジワーカーのチーム協業を支えるソフトウェア企業である。直近の Q3 FY2026(2026年3月期、4月30日発表)決算は、総売上 $1,787M(前年同期比 +32%)、クラウド売上 $1.13B(+29%)、データセンター売上 $560.7M(+44%)と全方位で加速。非GAAP営業利益は $607.2M・非GAAP営業利益率 34%(前年 26%)へと大幅にマージンインフレクションを示し、GAAP営業利益も $170M と少なくとも8四半期ぶりにプラス転換した。フリーキャッシュフロー(FCF)は $561M(FCFマージン 31%)。Net Revenue Retention(NRR)は4四半期連続で 120% 超を維持し、既存顧客が前年比で平均 20% 以上多く支払っている構図が続く。決算翌日に株価は +29% 急騰した。
しかし足元の株価 $79.95 は、ピーク(2025年の $300 超)から約 75% 下落した水準にあり、2026年だけで半値以下に沈んだ「ソフトウェアセクター全体の AI ディスラプション懸念による売り」の渦中にある。市場は「Jira/Confluence のようなプロジェクト追跡・ドキュメント協業は、安価な AI エージェントで代替されうるのではないか」という構造懸念を織り込み、業績が好調にもかかわらずバリュエーション・マルチプルを圧縮し続けてきた。
最大の論点は AI(Rovo / Teamwork Collection)の収益化が、セクター全体の AI ディスラプション懸念を上回るペースで進むか である。Rovo 利用顧客は非利用顧客の約2倍の速度で ARR を伸ばし、AI クレジット利用は月次 +20% 超で増加。Teamwork Collection 採用顧客は1,000社超で、座席数を 10%+ 拡大している。一方で SBC(株式報酬)希薄化、データセンター移行の一時要因の剥落、競合(ServiceNow 等)の存在はリスク。
2. 事業構造と競争優位性
2-1. セグメント別売上構成(Q3 FY2026)
| セグメント | 売上 | YoY | コメント |
|---|---|---|---|
| Cloud(サブスク) | $1,130M | +29% | 最大かつ主力。AI・移行・新規が牽引 |
| Data Center(オンプレ年間ライセンス) | $560.7M | +44% | EOL(提供終了)前の大型前倒し購入が押し上げ |
| Marketplace & Other | $93.8M | +6.9% | サードパーティアプリ流通・関連 |
| 総売上 | $1,787M | +32% | 全社加速 |
クラウドへの移行が進む中、Q3 はデータセンターの「提供終了(EOL)」アナウンス前に大型顧客がライセンスを前倒し購入した影響で、想定より約 $50M 多い term license 売上が計上された。これは Q4 には同規模では反復しない一時的な追い風である点に留意が必要。
2-2. 主要KPI(Q3 FY2026)
| 指標 | 値 | コメント |
|---|---|---|
| Net Revenue Retention(NRR) | 120% 超 | 4四半期連続。既存顧客の拡張が堅調 |
| Cloud ARR $10,000 超の顧客数 | 55,913社 | 大口顧客基盤の着実な積み上げ |
| 非GAAP営業利益率 | 34% | 前年 26% から +8pt のレバレッジ |
| GAAP営業利益 | +$170M | 8四半期ぶりプラス転換 |
| FCFマージン | 31% | $561M、季節性で四半期変動大 |
| 座席圧縮(seat compression) | 兆候なし | 拡張・クロスセル・AI 利用が堅調と説明 |
2-3. AI(Rovo / Teamwork Collection)の収益化
- Rovo 利用顧客は非利用顧客の約2倍速で ARR 成長。AI クレジット利用は月次 +20% 超で増加。
- Teamwork Collection(AI 機能を束ねた上位プラン)採用顧客は1,000社超。標準プラン比で Rovo クレジットを3倍超/ユーザー、アクティブエージェントを2倍超利用し、座席数を 10%+ 拡大。
- Service Collection(JSM中核)は ARR $1B を突破、YoY +30% 超。ITSM 領域での displacement(競合置換)が記録的。
2-4. 競争優位性(Moat)
- ボトムアップ普及 × デファクト標準: 開発チームへの Jira/Confluence の浸透は深く、スイッチングコストが高い。30万社超の顧客基盤と豊富なデータが Teamwork Graph(横断ナレッジグラフ)の AI 学習資産となる。
- マルチプロダクト・クロスセル: Jira → Confluence → JSM → Loom → Rovo へと「Collection」単位で束ね、NRR 120% 超を支える land-and-expand モデル。
- 効率的な GTM: 営業主導ではなく製品主導の獲得で、非GAAP営業利益率 34% という高収益性を両立。
2-5. SWOT
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| S (Strength) | 30万社超の顧客基盤 / NRR 120%超 / 非GAAP営業利益率 34% / FCF 創出力 / AI 収益化の早期実証 / ネットキャッシュ財務 |
| W (Weakness) | GAAP では SBC 重く希薄化リスク / データセンター一時要因の剥落 / クラウド移行の山を越えると成長率鈍化の構造 / 株価のボラティリティが極端 |
| T (Threat) | AI エージェントによるソフトウェア経済性の破壊懸念(セクター再評価) / ServiceNow・Monday.com・Notion 等との競合 / マクロ・IT予算減速 / 高い期待値(成長鈍化時の失望リスク) |
3. 直近業績とファンダメンタル
3-1. 四半期推移(直近)
| 指標 | Q1 FY26 | Q2 FY26 | Q3 FY26 |
|---|---|---|---|
| 総売上 | 約 $1.40B | 約 $1.64B(+23%) | $1,787M(+32%) |
| Cloud 売上 YoY | 高20%台 | 高20%台 | +29% |
| 非GAAP営業利益率 | 20%台 | 20%台 | 34% |
| FCF | — | $168.5M(FCFM 11%) | $561.3M(FCFM 31%) |
| GAAP営業利益 | マイナス | マイナス | +$170M |
Q3 のマージン・利益急改善(margin inflection)が、決算後の +29% 急騰の主因。
3-2. ガイダンス
- FY2026 通期: 総売上成長率を約 24%(従来 22%)へ上方修正。クラウド売上成長率は約 26.5% へ引き上げ。
- Q4 FY2026: 売上 $1.65B〜$1.66B、クラウド成長 約 26%。データセンターの前倒し一時要因は Q4 に同規模では反復しない前提。
3-3. 株価・財務指標(2026/6/23 時点)
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 株価 | $79.95 |
| 時価総額 | 約 $21.0B(株式数 約 263M) |
| ネットキャッシュ | 約 +$1.3B(現金約 $2.5B / 負債約 $1.2B) |
| エンタープライズ価値(EV) | 約 $19.7B |
| TTM 売上(概算) | 約 $6.3B |
| Forward 売上(FY26 ≈ +24%) | 約 $6.4B |
| EV / 売上(Forward) | 約 3.0x |
| 非GAAP営業利益率 | 34%(Q3) |
| FCFマージン(TTM 概算) | 約 27〜30% |
| Rule of 40(売上成長 +32% + FCFM 31%) | 約 63(十分にクリア) |
市場は成長・収益性ではなく「AI による将来の構造毀損」を織り込んでいる。