
この銘柄、まずは"分析"からいっしょに見ていきましょう。
事業と業績までを無料で公開しています。バリュエーションと"結論"パートは、筆者の個人用メモとして非公開にしています。
1. エグゼクティブサマリー
TSM は、台湾証券取引所 (TWSE: 2330) に上場する Taiwan Semiconductor Manufacturing Company Limited の米国 NYSE ADR(1 ADR = 現地普通株 5 株)。世界の半導体受託製造(ファウンドリ)市場で約 70% のシェアを握る純粋ファウンドリの絶対王者で、N3(3nm)量産・N2(2nm)立ち上げに代表される先端ノードを事実上独占する。Apple・NVIDIA・AMD・Broadcom・Qualcomm を主要顧客とし、AI・HPC(高性能コンピューティング)向け先端ロジックの「唯一の供給インフラ」として機能している。
2026 年 Q1 業績は 売上 $35.90B(+40.6% YoY、USD ベース)、純利益 NT$572.48B(+58.3% YoY)、希薄化後 ADR EPS $3.49、粗利益率 66.2%(前四半期比 +3.9pt) と全項目でコンセンサスを上回った。先端ノード(≤7nm)が wafer 売上の 74%、N3 単独で 25%、HPC/AI が全売上の 61%(前四半期比 +20%) を占め、需要が供給を上回る逼迫が 2027 年まで続く見通し。
N2 立ち上げによる短期的な粗利益率希薄化(通期 2〜3pt)はあるが、N3 が 2026 年下期に全社平均超えへ回復し相殺される構図。最大リスクは (1) 台湾有事の地政学テールリスク、(2) AI capex サイクルのピークアウト、(3) ADR が現地株に対し高水準(high-20%)のプレミアムを抱える点。
2. 事業構造と競争優位性
2-1. 事業内容とセグメント別売上
TSM は自社ブランド製品を持たない 純粋受託製造(pure-play foundry)。顧客の設計を最先端プロセスで製造し、ロジック半導体の「製造インフラ」として収益化する。2026 年 Q1 の構造は以下の通り。
| 区分 | 売上構成比 (Q1 2026) | コメント |
|---|---|---|
| HPC / AI | 61% | 前四半期比 +20%、最大かつ最速成長ドライバー |
| スマートフォン | ~25% | 季節要因で軟化、N3/N2 で再加速余地 |
| IoT / 車載 / その他 | ~14% | 車載は底打ち回復局面 |
| プロセスノード別 | wafer 売上比 (Q1 2026) | コメント |
|---|---|---|
| N3(3nm) | 25% | 2026 下期に全社平均超え粗利へ回復 |
| N5(5/4nm) | ~30% | 成熟・高採算 |
| ≤7nm 合計(先端) | 74% | 先端比率の高さ=高採算・高参入障壁 |
| N7 以上・特殊プロセス | ~26% | 安定キャッシュ源 |
2-2. 競争優位性(Moat)
TSM の堀は 「技術リード × 顧客集積 × 資本規模」の三位一体で、世界で唯一無二。
- 技術リードの堀: N2(2nm、GAA トランジスタ)を 2025 年末〜2026 年に量産投入。Samsung Foundry は歩留りで後塵、Intel Foundry(18A/14A)は外部顧客獲得が限定的で赤字継続。先端ロジックで TSM に対抗できる純粋ファウンドリは存在しない。
- 顧客集積の堀: Apple・NVIDIA・AMD・Broadcom が先端枠を奪い合う「行列ができる」需給。AI アクセラレータ(NVIDIA GB300/Rubin、AMD MI 系)はすべて TSM 製造に依存し、顧客のスイッチングコストは事実上禁止的に高い。
- 資本規模の堀: 2026 年 capex $52B〜$56B、その 70〜80% を先端プロセス(N2 ramp + A14/1.4nm 開発)に投下。年間 5 兆円超の設備投資を回収できる稼働率と採算を持つのは TSM のみで、後発が同水準を再現するのは資本・時間の両面で不可能。
2-3. SWOT 分析
| 強み (Strengths) | 弱み (Weaknesses) | |
|---|---|---|
| 1. ファウンドリ世界シェア ~70%、先端は事実上独占 | 1. 生産能力が台湾に集中(地政学集中リスク) | |
| 2. 粗利益率 66.2%・ROE 30%+ の圧倒的採算 | 2. AI/HPC 単一テーマへの依存度上昇 | |
| 3. AI/HPC 需要で売上 +40% YoY の成長持続 | 3. 海外 fab(米・日)の立ち上げで粗利希薄化 | |
| 4. 強固な FCF と健全 BS(実質ネットキャッシュ) | 4. ADR が現地株に high-20% のプレミアム |
| 機会 (Opportunities) | 脅威 (Threats) | |
|---|---|---|
| 1. AI capex 拡大の長期構造トレンド(〜2027 逼迫) | 1. 台湾有事・米中対立による供給寸断テールリスク | |
| 2. N2/A14 の単価上昇とミックス改善 | 2. AI capex サイクルのピークアウト・在庫調整 | |
| 3. 米 Arizona・日 Kumamoto の現地供給確立 | 3. 米国の輸出規制・関税(半導体関税観測) | |
| 4. 先端パッケージ(CoWoS)の供給逼迫=価格決定力 | 4. Samsung/Intel の歩留り改善による競争復帰 |
2-4. 米国・日本工場(地理的分散の進捗)
- Arizona(米国): 取締役会が最大 $20B の追加資本注入を承認。第 2 工場は 2026 年夏に装置搬入開始、7〜9 月期に据付、2027 年に N3(3nm)量産を目標。総額 $165B 規模の GigaFab 構想で米国内供給を確立し、関税・地政学リスクをヘッジ。
- Kumamoto(日本): 第 1 工場稼働済み。第 2 工場は受注見通しの弱さで一部スケジュールに不透明感があるが、当初計画より先端(4nm)寄りへシフトを検討。
- いずれも短期的には立ち上げコストで粗利を希薄化させるが、中期的には地政学プレミアム解消と顧客の供給網多様化要求への対応として戦略価値が高い。
3. 直近業績とファンダメンタル
3-1. Q1 FY2026 業績ハイライト
| 項目 | Q1 FY2026 | YoY / QoQ | コメント |
|---|---|---|---|
| 売上 | $35.90B | +40.6% YoY | コンセンサス $35.5B を beat、QoQ +6.4% |
| 純利益 | NT$572.48B | +58.3% YoY | 営業レバレッジ顕著 |
| ADR EPS(希薄化後) | $3.49 | beat | 予想 $3.31 を +5.4% 上回り |
| 営業利益率 | ~58%(推定) | +4.1pt QoQ | 業界突出 |
| HPC/AI 売上比 | 61% | +20% QoQ | 最大成長エンジン |
| N3 wafer 売上比 | 25% | 拡大 | 採算改善の主役 |
3-2. 通期 2026 ガイダンスと需給
- 通期売上成長率: +30% 超(USD ベース)へ引き上げ。FY2026 売上コンセンサスは約 $163.8B
- Q2 2026 売上ガイダンス: $39.0B〜$40.2B、粗利益率 65.5〜67.5%
- N2 希薄化: N2 立ち上げで通期粗利を 2〜3pt 希薄化させるが、N3 が 2026 下期に全社平均超えへ回復し相殺。海外 fab 立ち上げが追加ドラッグ
- 供給逼迫は 2027 年まで継続見通し。先端パッケージ(CoWoS)も逼迫=価格決定力
3-3. ファンダメンタル指標
| 指標 | TSM (ADR) | コメント |
|---|---|---|
| 株価 (ADR) | $467.37 | アナリスト平均目標の中心圏 |
| 時価総額 | ~$2.4T | 世界有数のメガキャップ |
| EPS (TTM, ADR) | $11.80 | +56.4% YoY |
| FY2026E EPS(推定) | ~$15.00 | Q1 $3.49 + Q2 ~$3.69 + H2 拡大 |
| FY2027E EPS(推定) | ~$18.50 | 成長持続前提 |
| PER (TTM) | ~39.6x | TTM EPS $11.80 ベース |
| PER (Fwd 27E) | ~25.3x | 一段の成長余地織り込み |
| 粗利益率 | 66.2% | ファウンドリ業界で突出 |
| ROE | ~30%+ | 高採算・高効率 |
| 配当利回り | ~1.0% | 配当方針あり、成長再投資が主 |
| Net Debt/EBITDA | 実質ネットキャッシュ | BS 極めて健全 |
| 52 週レンジ | おおむね $200 台後半〜$480 台 | AI 相場で大幅上昇後の高値圏 |
PER(TTM)39.6x は高く見えるが、EPS が +56% YoY で伸びているため Forward PER は 30x まで低下し、+30% 成長に対する PEG は約 1.0。市場は AI capex サイクルの持続性と地政学リスクをディスカウントして織り込んでいる。