
この銘柄、まずは"分析"からいっしょに見ていきましょう。
事業と業績までを無料で公開しています。バリュエーションと"結論"パートは、筆者の個人用メモとして非公開にしています。
1. エグゼクティブサマリー
Texas Instruments(TXN)は、アナログ半導体および組込みプロセッサで世界最大手の地位を占める、産業・車載向けの汎用アナログチップのデファクト・サプライヤーである。2026年に入り、2022年後半から続いた産業・車載の在庫調整サイクルが明確に底打ちし、業績は急回復局面にある。SEC EDGAR(XBRL)確定値によれば、直近Q2 2026(2026-04-01→2026-06-30)の売上は$5,463M(前年同期$4,448M比 +22.8%)、純利益$1,980M、希薄化EPS $2.14 と、いずれも前年同期から大幅増を記録した。
投資の中核論点は二つ。第一に、産業・車載・データセンター(DC)の需要サイクルが「谷を脱して山に向かう」局面にあり、営業レバレッジ(会社は増収分の75〜85%が利益に落ちると説明)で利益とマージンが加速度的に改善している点。実際、粗利率はQ1 58% → Q2 61%へ拡大し、工場稼働率の上昇と300mmウェハ比率の向上がドライバーとなっている。第二に、複数年にわたった300mm大型設備投資(Capex)のピークアウトである。2026年Capexガイダンスは$2〜3Bと、2025年比で約34〜56%減となり、これがフリーキャッシュフロー(FCF)の構造的な回復を後押しする。直近TTM FCFは$6.53B(売上比33.6%、CHIPS法インセンティブ$1.18B含む)に達した。
一方でバリュエーションは既にこの回復を相当程度織り込んでいる。現在株価$279.58はTTM EPS $6.71に対してPER約41.7倍、TTM FCF約$7.10/株に対してP/FCF約39倍と、歴史的にも高い水準にある。フォワードEPS(FY2027E ~$10前後)ベースでは約28〜29倍に収れんし、TIのFCF品質・株主還元(22年連続増配)に対する妥当なプレミアムレンジに収まる。詳細は Section 5 参照。
2. 事業構造と競争優位(SWOT / Moat)
事業構造
TIの売上は3セグメントに分かれる(Q2 2026):
- Analog(アナログ): $4.37B(全体の約80%、前年比 +26%)— 電源管理、シグナルチェーン。TIの中核。
- Embedded Processing(組込みプロセッサ): $788M(前年比 +16%)— マイコン、DSP。
- Other: $310M(前年比 -2%)— 電卓、DLP等。
エンドマーケットは産業(最大構成)、車載、パーソナルエレクトロニクス、エンタープライズ/DC、通信インフラに分散。産業・車載の合計で売上の約7割を占め、景気敏感度が高い。
競争優位(Moat)
- 300mm製造による構造的コスト優位: TIはアナログ半導体を300mmウェハで量産する数少ないプレイヤー。200mm比でチップあたり約30〜40%低コストとされ、汎用アナログの価格競争で圧倒的優位。自社Fab・自社テストの垂直統合により、業界屈指の粗利率(60%超)を実現。
- 極端に分散した製品・顧客ポートフォリオ: 10万以上の製品SKU、10万社超の顧客。単一製品・単一顧客依存が低く、需要の底堅さと価格決定力の源泉。
- 長寿命・高スイッチングコスト: アナログ部品は設計に組み込まれると10年超使われ、リプレースコストが高い。ロングテールの安定収益。
- 米国内Fab+CHIPS法補助: 米国内300mm Fab群への投資に対し35%の投資税額控除(ITC)と直接補助。TTM FCFに$1.18Bのインセンティブが含まれ、地政学リスク下でのサプライチェーン優位も持つ。
SWOT
- Strengths: 業界最高水準の粗利率/FCF創出力、300mmコスト優位、22年連続増配の株主還元、分散した顧客基盤。
- Weaknesses: 産業・車載への高依存=景気敏感、直近Capex負担で数年FCFが圧迫されていた、DC/AI領域では先端ロジック勢に比べ成長ドライバーが相対的に地味。
- Opportunities: 産業・車載・DCの同時回復による営業レバレッジ、Capexピークアウト→FCF構造改善、数年ぶりの値上げによるマージン上乗せ、EV・産業オートメーション・DC電源の長期需要増。
- Threats: 中国系アナログメーカー(汎用品)の台頭と価格圧力、循環反転(回復が息切れすれば高PERが是正)、CHIPS法補助の政策リスク、車載在庫の再調整リスク。
3. 直近業績とファンダメンタルズ
すべてSEC EDGAR(XBRL)確定値。締め日(end)を期の真のアンカーとする。
四半期推移(EDGAR確定)
| 四半期(end基準) | 売上 | 純利益 | 営業利益 | 希薄化EPS |
|---|---|---|---|---|
| 2025-03-31 | $4,069M | $1,179M | $1,324M | $1.28 |
| 2025-06-30 | $4,448M | $1,295M | $1,563M | $1.41 |
| 2025-09-30 | $4,742M | $1,364M | $1,663M | $1.48 |
| 2026-03-31 | $4,825M | $1,545M | $1,808M | $1.68 |
| 2026-06-30 | $5,463M | $1,980M | $2,310M | $2.14 |
売上・利益・EPSともに5四半期連続で上昇基調。営業利益率はQ2 2026で42.3%($2,310M/$5,463M)まで回復。
通期推移(EDGAR確定)
| 通期(end基準) | 売上 | 純利益 | 営業利益 | 希薄化EPS |
|---|---|---|---|---|
| ~2023-12-31 | $17,519M | $6,510M | $7,331M | $7.07 |
| ~2024-12-31 | $15,641M | $4,799M | $5,465M | $5.20 |
| ~2025-12-31 | $17,682M | $5,001M | $6,023M | $5.45 |
サイクル位置の明示(最重要): FY2024(EPS $5.20)が直近サイクルの谷。FY2025で下げ止まり、2026年から回復(山に向かう)局面へ転換した。ピーク時FY2023はEPS $7.07。すなわち現行TTM EPS $6.71は「回復途上のまだ低い値」であり、これに掛かるTTM PER 41.7倍は錯覚的に高い。フォワードEPSで正規化して評価する必要がある。
TTM主要指標(Web/IR、2026-08時点)
- TTM売上: 約$19,478M
- TTM純利益: 約$6,184M
- TTM希薄化EPS: 約$6.71
- TTM FCF: $6.53B(売上比33.6%、CHIPS法インセンティブ$1.18B含む)
- TTM営業CF: $8.67B / TTM Capex: $3.31B
- TTM株主還元: $5.82B(配当$5.11B+自社株買い$0.71B)
- 希薄化株式数: 約920M株
- 四半期配当: $1.42/株(年$5.68、22年連続増配、利回り約2.0%)
- バランスシート(2026-06-30): 総資産$35,882M、株主資本$18,007M、現金$3,660M
財務健全性: 高マージン・高FCFで自己資本厚く、配当性向は回復EPSに対して余裕あり。Capexピークアウトにより、mgmtはFCF/株 $8超のポテンシャルを示唆。